結果と考察
  銅板(A) 防藻ライニング材(B)
溶出Cu濃度
mg/l
溶出速度
g/m2/year
溶出Cu濃度
mg/l
溶出速度
g/m2/year
溶出比率
A/B
1日静置 0.44 26.8 0.09 5.5 4.9
5日静置 0.84 10.2 0.08 1.0 10.5
10日静置 1.20 7.3 0.20 1.2 6.0
20日静置 1.46 4.4 0.15 0.5 9.7
30日静置 1.23 2.5 0.07 0.1 17.6
1日振騰 0.43 26.2 0.15 9.1 2.9
5日振騰 1.57 19.1 0.59 7.2 2.7
10日振騰 3.44 20.9 0.52 3.2 6.6
20日振騰 5.84 17.8 0.69 2.1 8.5
30日振騰 8.69 17.6 0.86 1.7 10.1
表−1 銅の溶出実験結果
表中の溶出Cu濃度は、処理水中の濃度0.04mg/リットルを差し引いた数値を記載した。また、腐食速度は、銅の比重を8.96、溶出面積を48として、0.8リットルの容器に溶出した銅の量から1年間の平均厚さ計算した。溶出速度は同様に、1年間の溶出量を速度として計算した。

図-1はCu濃度の経時変化を、図-2は溶出速度を示したものである。銅板は静置した場合はCuの溶出は20日程度で止まったが、振騰した場合はCuの溶出は30日経っても止まらなかった。そのため、溶出速度は約18g//yearで常時溶出する、という結果になっていた。

これに対し、防藻ライニング材は静置した場合も振騰した場合も溶出量、溶出速度ともに低く抑えられていて、振騰した場合で銅板の溶出速度の1/10程度の約1.7g//yearであった。また、10年間後の追跡調査結果でもその有効性は失われていないことを確認している。
今後の課題
今回行った実験は、最終沈殿池に防藻目的で使用される材料の評価を行った。その結果、防藻ライニング材の方が銅板に比較し、環境に放出されるCu量が1/10と少なく、環境に優しい材料であることを明らかにした。

銅の溶出は、今後予想される生態系との共生を目指す下水道としては少ない方が望ましい。加えて、防藻ライニング材の場合は、越流トラフだけでなく最終沈殿池の藻の着きやすい所にも施工可能で耐久性も優れ、藻によるコンクリート劣化の保護にもなるなど、利用価値は高い。

現在、下水道普及率は60%であるが、建設時の施設の、2〜3年の先行投資による余裕や合併浄化槽・集落排水施設の普及と合わせると、さらに多くの人々が下水道の恩恵に浴している。その結果、下水道の21世紀は維持管理の時代、改築更新の時代、経営・運営の時代と考えることもできる。ようやく整備した下水道施設を、遊休施設、劣化・使用不可能施設にしないようにしたいものである。

加えて、現在ある施設や、環境に還元される資源の有効利用、耐震性や機能の向上、合流式下水道問題、経営の観点にたった効率的運転・整備拡充、機能保全・改築更新といった管理運営の観点にたった下水道施設や技術を支え育ててゆくことも、重要な課題になってきている。これらは、「造る技術(建設技術)」に対して「育む技術(管理技術)」と呼ぶこともでき、これらニーズに応えることも今後は求められてきている。

しかし、建設技術に比較し管理技術の進歩は、はるかに遅れているといっても過言ではない。今回報告した処理場での防藻対策の取組みはまだ始まったばかりであり、さらなる耐久性の向上や環境への対応が課題として残されている。今後、この技術のさらなる進歩の一助になれば幸いである。
<参考文献> * 1) 武田重雄:維持管理段階の知恵を知る〜池面の侵食について−、
月刊水道、Vol.7、No.8、pp.45_48(1984)
  * 2) Encyclopedia of Medical Science、医科学大事典、講談社(1984)
  * 3) 山本義和他:水生生物と重金属[I]銅編、サイエンティスト社(1979)
  * 4) 日本下水道事業団:防藻塗装、越流トラフ部、越流堰板、下水道施設標準図集、p.162(2000)